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マクロ経済

研究会議
論文
出版
 

世界経済の重要問題:2005年の展望

プログラム概要

マクロ経済研究会議
2004年11月8日-9日
ホテルオークラ 東京

参加者リスト(PDF: 17kb)

プログラム

2004年11月8日
開会の挨拶

氏家 純一 東京国際研究クラブ理事長・野村ホールディングス会長


午前の部:
EU拡大が欧州のマクロ経済と企業戦略に及ぼすインパクト
EUの拡大は欧州経済にとって何を意味するのか
2005年とそれ以降の見通し
論文: Paola Subacchi 王立国際問題研究所(チャタムハウス)
要旨: 本稿は2004年のEU拡大が欧州経済に及ぼすインパクトを評価し、特に短期的な見通しと今後の課題に着目する。第1部は、2005年の欧州経済の見通しを論じる。経済活動はかなり活発なまま推移するが、2004年に比べれば弱くなるだろう。インフレ圧力はかなり抑えられると思われる。第2部は、東方への拡大が(GDP成長への寄与という意味で)1995年以前にEUに加盟した15カ国全体の経済に大きな違いをもたらしそうにないことを論じる。第3部では、東欧の主要4カ国が所得のギャップを埋めるのに必要としそうな年数を試算し、これを4大発展途上国(ブラジル、ロシア、インド、中国。いわゆるBRICs)の長期経済成長率予想と比較した上で、アイルランドが1990年代に成し遂げた奇跡的成長を議論する。最後に、東欧の主要国にはEUへの収れんを加速する経済規模も、地政学的に見た立地の優位性もないことを指摘する。統合の進んだ欧州の一部になることが開発の加速にとって重要であることは間違いないものの、本当の意味での成功の見通しと、その長期にわたる持続可能性に欠かせないのは健全なマクロ経済政策であり、それが整って初めて重大な変化がもたらされると思われる。
コメント: Martin Werding ifo
EU拡大が企業戦略と欧州内の生産拠点選定に及ぼすインパクト
論文: Frederique Sachwald ifri
要旨: 本稿はEU拡大が企業戦略の策定に及ぼすインパクトと、EU加盟25カ国内での生産拠点選定に及ぼす影響を考察する。第1部は、1995年までにEUに加盟した15カ国(EU-15)とその後に加盟した国々との貿易や外国直接投資(FDI)に着目し、その規模が大きくなったことに加え、欧州企業がEU域内で垂直分業を進めていることを述べる。特にドイツとフランスが新規加盟国とどのようにかかわっているかを比較する。また対中国貿易の活発さを強調することで、EU25カ国内の貿易についても論じる。第2部は自動車、情報通信(特にパソコンと携帯電話)、繊維・アパレルの3業種に着目し、企業の生産拠点選定の理由とその後の結果が産業によって異なることを示す。この3業種では生産拠点を東方に移す傾向が見られるものの、それぞれ固有の理由や状況がある。最後に、新規加盟国にある生産拠点をほかに国に移すことについてフランスと欧州全体で議論が生じていることを紹介し、「賃金と法人税のダンピング」という脅威への対応策として議論されている政策にも言及する。
コメント: Martin Werding ifo

午後の部:
アジアの地域経済統合がアジア企業の戦略に及ぼすインパクト
東アジアの経済統合とそれが韓国経済にもたらすインパクト
論文: Il-Dong Koh 韓国発展研究所
要旨: 本稿は、地域経済統合の結果として韓国経済が直面することとなった問題の一部を分析する。中国経済の興隆と成功を背景に、韓国と日本、および中国の経済的結びつきは強まる傾向にある。興味深いことに、韓国と日本の間に立場の違いはない。日本はハイテク産業や高付加価値産業で強い競争力を維持しているが、韓国と中国の貿易パターンの違いは、中国が急速にキャッチアップする形で縮小している(ローテク産業は例外)。その一方で韓国は中国経済への依存度を強める傾向にあり、韓国経済は外生的なショックにさらされやすくなっているとの懸念が生じている。また韓国の有力企業が生産拠点を中国に移して必要な原材料や部品の現地調達率を比較的高めていること(これは中国経済を潤す可能性がある)についても、韓国国内の生産ネットワークに悪影響を与えかねないとの懸念もある。韓国企業の中国進出ラッシュにより「産業の空洞化」が生じるとの懸念が繰り返し論じられているが、韓国企業によるFDIをベースに考えるなら、この議論にはあまり説得力がない。むしろ、韓国によるFDIの枠内で他国向けが中国向けに切り替わっているように思える。しかし、輸出の伸びと国内での付加価値活動とのギャップ拡大(域内貿易の急増と域内のサプライチェーンへの統合により強化されている)は、強く懸念される問題である。このギャップの拡大は、韓国経済を二極化する主要因のひとつであり続けるだろう。その結果、輸出需要が旺盛な一方で内需が落ち込み続ける恐れもあろう。さらに、韓国では被雇用者に占める中小企業社員の割合が不当なほど高く、その中小企業の生産性が極めて低いという問題がある。韓国が近隣諸国と自由貿易協定(FTA)を結ぶためには、この問題も解決する必要がある。韓国の中小企業は国際市場で競争しようという意欲が弱いため、低コスト生産が可能な中国などの国々や、高い技術を持つ日本などとのFTAに反対する恐れもある。地域の経済統合が進むにつれて付随的に生じるこうした問題にも、政府は優先順位を付けながら対処する必要があろう。
コメント: KIM Yang-hee 韓国国際経済研究所
地域経済統合が中国の国内企業および多国籍企業の拡張戦略に及ぼすインパクト
論文: ZHAO Jinping 中国国務院発展研究中心
要旨: 中国、日本、そして韓国は、東アジアおよび世界の経済発展の有力プレーヤーである。この3国のGDPの合計は東アジア13カ国のそれの90%に達し、3国の貿易額の合計は同じ13カ国のそれの70%に相当する。したがって、この3国の経済的つながりや経済統合は、東アジア全体の経済協力に多大なインパクトを及ぼす。マクロ経済学の視点から見る限り、中日韓の3国がFTAを締結すれば、3国のマクロ経済にはプラスの影響が及ぶだろう。経済成長は加速し、福祉も全般に向上し、貿易の伸び率も交易条件も改善するだろう。国によって比較優位性が異なるため、この3国間の貿易が自由化されれば、中国の産業には多種多様な影響が及ぶだろう。全体的に言えば、重工業への競争圧力は、労働集約的な産業や開放度が高い輸出産業への圧力よりも強くなるだろう。中国では地元資本の企業も外国投資企業(FIE)も3国のFTAが企業にもたらす好影響を認識しており、その大半が早期のFTA交渉の開始を支持している。また大半の企業は、中日韓がFTAを締結すれば、1)3国の経済成長と雇用創出に寄与する、2)日本や韓国との貿易摩擦の緩和や、日韓の対中投資の増加に役立つ、3)東アジア以外の市場への中国の依存度低下や、東アジア以外の国々からの対中投資の増加に貢献すると考えている。企業戦略については中国にある大半の企業が、貿易自由化と北東アジアへの投資奨励を背景に、日本や韓国からの輸入および両国への輸出が増えるとみている。企業は新技術の導入や生産コストの削減、事業多角化などにより生産性を高めるだろう。生産拠点や研究開発拠点を中国に移すところも出てくるだろう。北東アジアの経済統合は、ほかの地域に比べはるかに遅れている。産業再構築と中日韓の地域経済統合を加速させるためには、政府と企業、そして研究機関が中心となり、ほかの分野の協力も得ながらともに努力する必要がある。
コメント: 深川 由起子 東京大学
地域経済統合がASEANの地元資本企業と外国投資企業に及ぼすインパクト
論文: Linda Low ISEAS
要旨: 本稿はまず、最近のFTAブームに象徴される地域経済統合がマクロ経済に及ぼすインパクトについて、国際貿易や外国投資、およびASEAN域内における貿易や投資などの分析を基に広範に論じる。地域経済統合がASEANの企業の外国投資やマーケティング戦略などに及ぼす影響を知るには、ASEANの個別企業をミクロ経済レベルで分析するのが理想的だ。しかし膨大な実地調査が必要なこと、意志決定のマクロ要因とミクロ要因の切り分けが難しいことなどから、実際は不可能である。そこで本稿は、ほかのFTAで観察された貿易や投資全般への影響に着目した。ASEAN統合の動機とFTAを目指す動機は同じだと考えられるが、ひとつ異なる可能性があるのは、ASEAN諸国のFTAについてはその恩恵を広く大衆に知らせる努力がもっと必要なことだろう。FTAは経済全体や商取引の利益に絡む上に、どうしても政治経済的なものがかかわる。しかし、地域経済統合や二国間のFTAのインパクトは、企業が世界戦略を決める際に考慮されている可能性がある。しかも、考慮される度合いは高まりつつあるかもしれない。
コメント: 深川 由起子 東京大学
FTA締結計画を背景に日本の製造業がASEANおよび中国で採っている戦略
論文: 木下 智 野村證券 シンガポール
要旨: 本稿は、ASEANおよび中国における日本の製造業者の戦略を、主に生産拠点の選定という視点から考察する。日本の製造業者はASEANでの活動を弱め、ASEANから中国に関心をシフトさせたとの見方が日本国内でも国外でも出てきている。そこで本稿は、入手可能なデータを精査し、日本の製造業者は中国だけでなくASEANでもまだ活発な投資を行っていることを示す。そして主要3セクター(電気機器、自動車、石油化学)についてケーススタディを行い、ASEANと中国にて日本の製造業者がどんな戦略を採っているかを詳しく検証する。具体的には、上記の3セクターすべてにおいて日本企業がASEANと中国の両方で事業拡張を計画していること、ASEAN自由貿易地域(AFTA)が日本企業(特に電気機器メーカーと自動車メーカー)の活動に大きなインパクトを与えたことを述べる。ASEANと中国、ASEANと日本、およびASEANとインドといった組み合わせで検討されているFTAが日本企業の戦略に及ぼしそうなインパクトについても検証する。最後に、さまざまなFTAの計画などを背景に、ASEAN5カ国で新しい通貨秩序が中期的に台頭する可能性があるという我々の見解を紹介する。
コメント: KIM Yang-hee 韓国国際経済研究所

2004年11月9日
午前の部:
第2期ブッシュ政権下の米国の外交・経済政策の方向性
米国経済の課題:成長経済における経済的不均衡
論文: Barry Bosworth, ブルッキングス研究所
要旨: 本稿は、第2期ブッシュ政権の経済政策担当者が直面する経済情勢について論じる。第1部は、向こう数年間の米国経済の見通しに着目する。国内経済が拡大を続けるに当たって投資需要が担う重要な役割と、米国経済の供給サイドが持つファンダメンタルズの強さにスポットを当てる。生産性は著しく高い伸びを続けており、最近ではその大半がサービス産業の生産性改善により得られている。エネルギー価格の高騰にもかかわらず、インフレ率は低く保たれており、米国の見通しはほかの工業国よりも比較的芳しいと言えよう。主な短期リスクとしては、世界のエネルギー市場が混乱する可能性に関連するものが挙げられる。ただ、米国経済は成長を持続する見通しだが、2つの深刻な不均衡に直面している。巨額かつ長期化している財政赤字と、急拡大している対外不均衡である。そこで本稿は、財政の状況が過去数年で劇的に変化した原因を調べ、巨額かつ慢性的な財政赤字の将来について論じる。ただし、国内経済の視点のみで見る限り、連邦政府の赤字は持続可能であり、連邦議会も大統領も大がかりな対策は採らないと考えられる。それ以上に深刻なのは、経常収支の赤字拡大が続いていることである。現在のペースでの経常赤字の拡大は持続可能ではないように思われるからである。そこで本稿は、過去数年の着実な赤字拡大に寄与した国内外の要因を検証し、赤字を管理可能な範囲に減らせば米国内外の経済にどのような影響が及ぶかを考察する。対外収支の赤字は今後の米国政権にとってやっかいな課題だが、長期にわたって米国の貿易赤字に大きく依存してきた世界経済全体にとってもやっかいである。その意味では、米国外で危機的な状況が発生すれば、米国は徹底的な財政赤字削減に乗り出して過剰消費を抑制しなければならないかもしれない。
コメント: 福島 清彦 野村総合研究所

参加者の自由討論

第2期ブッシュ政権下の米国の外交・経済政策の方向性について


閉会の挨拶

氏家 純一 東京国際研究クラブ理事長・野村ホールディングス会長

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