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マクロ経済

研究会議
論文
出版
 

市場経済圏の拡大が産業・通商の世界構造および先進国経済の政策対応に及ぼす影響:中国を焦点に

プログラム概要

T5研究会議
2004年2月9日-10日
ブルッキングス研究所 ワシントン

日程

中欧・東欧諸国のEU加盟

Hans-Gunter Vieweg & Roubal Gabriele ifo

要約: 市場経済圏の拡大はグローバル化の中核をなす現象だが、いわゆる新興国や計画経済体制にあった旧社会主義国が世界経済に統合されるパターンはかなり異なる。そこで本稿は、1995年以前にEUに加盟していた15カ国(EU-15)の仲間となる中欧・東欧(CEE)経済に着目し、これを2つの側面から考察する。CEE諸国は2010年までに、世界最大で最も先進的な経済地域のひとつであるEUに完全統合される。その過程で生じる構造調整は容易に行えるものではないが、適切な経済政策で対応する必要がある。第1の側面では、バラッサ=サミュエルソン効果に着目する。CEE諸国に通貨ユーロが導入されれば高インフレ率を為替レートの調整で打ち消すことができなくなるため、ユーロ導入後の移行過程ではこの効果がひとつの障害になるとみられる。過去の事例を調べた限り、従来型のバラッサ=サミュエルソンの前提が成り立たないこと、貿易財セクターの生産性向上により誘発されるインフレは通貨同盟参加の障害にならないことが示されている。第2の側面では、EU正式加盟により低賃金を武器にした競争ができなくなるCEE諸国の世界経済への統合に着目する。まず、CEE諸国とEUの貿易構造を比較する。EUはベンチマークとして使用するため、その差を見れば構造変化の必要性が浮き彫りになる。CEE諸国を襲う競争圧力は、ここ数年でかなり大きくなった。為替レートの変動、特に中国人民元の下落は大きな課題となっている。デフレ傾向がもともと備わっていたこともあり、コモディティ化した商品を低賃金で生産する(「鉄のカーテン」が崩壊するまでは重要な経済活動だった)CEE諸国は、中国からの輸入増によって大きな圧力を受けている。これによってEUへの移行プロセスがひずんでしまう恐れもあり、この問題の深刻さは中国の外為政策とも関係している。本稿では、中国が米ドルペッグ制をあきらめ、世界各国との貿易関係を考慮した上で主要国通貨のバスケットと人民元をリンクさせることを提案する。
EU新規加盟国の多国間生産ネットワークへの統合、およびその輸出と発展に及ぼす効果

Hans Schedl ifo

はじめに: EUが新たな加盟国を受け入れるという見通しと、それに関連する外国直接投資(FDI)は、中欧・東欧の新規加盟国の貿易にどのような効果をもたらしたのだろうか。本稿は経済協力開発機構(OECD)の外国貿易統計を主に用いて、この問題を詳しく分析する。新規加盟国が既存の協力ネットワークに統合される様子は統計にどのように反映されるのか、構造変化に共通のパターンはあるのかといったことに加え、統合により各国の競争力に変化は出るのか、統合は新規加盟国の輸出関連産業の発展に貢献するのか、非EU諸国への輸出にも間接的な影響を及ぼすのかといった問題を考える。また、加入時の状況の違いがその後の展開にもたらす影響についても考察する。具体的には、早めに加入した国はそうでない国よりも発展の程度が有意に高いか否か、経済の状況の違いによって輸出の発展の仕方が変わるのかといった問題を考える。OECDの統計を選んだのは、データが3〜5ケタのコードを持つ4,275の製品グループに分けられているからだが、この数故に新規加盟国10カ国すべてを分析することはできず、今回は2004年にEUに加盟した3カ国(チェコ共和国、ハンガリー、ポーランド)とやや遅れて加盟した3カ国(ブルガリア、クロアチア、ルーマニア)を分析対象とする。また詳細な分析は前者3カ国についてのみ行い、後者3カ国については類似性が見られるか否かをチェックしている。なお、入手できなかったデータもあるため、分析する貿易統計は1993年〜2001年のものとなっている(OECDは2002年以降のデータをまだ提供していない)。
中国から他国への価格伝達

Briditte Granville & Sushanta Mallick 王立国際問題研究所(チャタムハウス)

要約: 本稿は、中国とG3(米国、欧州、日本)の間の価格伝達(為替レートショックを含む)がどの程度であるかを計測する。第1に、中国の価格形成を説明する要因を調べ、総物価と輸出物価がそれぞれ賃金、輸入物価、産出ギャップによって決まる長期的な関係を方程式にまとめる。第2に、VARモデルを用いて中国とG3の価格依存度の差を推計し、中国の価格の変化は米国の価格へと方向を変えずに伝達されるものの、EUや日本にはそれほど強く伝達されないことを示す。為替レートショックについては、日本または中国の通貨安が米ドル高という形を取って米国の物価を短期的に引き下げることを述べる。また、G3の国内総物価が低く抑えられているのは、輸入価格の下落のためでもあることを論じる。最後に、米国と中国が問題を解決できるか否かは主に国内政策次第であること、少なくとも米国にとっては為替レートはほとんど問題にならないことを指摘する。
中国と東欧諸国のグローバル・ネットワークへの統合:欧州多国籍企業は異質か

Frederique Sachwald ifri

まえがき: 高度経済成長を遂げる地域がアジアに登場し、やや程度は劣るが同様な地域が中欧・東欧(CCE)にも登場したことは、世界の経済成長率を中期的に高めるだろう。しかし、短期的な調整に伴う摩擦のために、高所得国と一部の新興国は懸念を抱くようになっている。摩擦が生じるのは、新興諸国における高成長の一部が工業国からの生産能力の移転によるものだからである。中国では高所得国をはるかに上回るペースで鉱工業生産が拡大しており、「世界の工場」と呼ばれるほどになっている。もっとも、中国が世界中で同じように脅威とみなされているわけではない。日本では1990年代の終わりごろに中国製品の輸入が急増し、その中身においても付加価値の高い製品へのシフトが見られたため、中国を潜在的脅威とみなす空気が生じた。日本企業がデジカメなど最先端の消費財を中国で製造するために投資を始めており、産業空洞化の恐怖がよみがえったのだ。ところが、そうした見方は2002年ごろから変わり始めた。中国の発展を見た日本は、そこに多大な可能性があると考え始めたのである。ある文献によれば、見方がそのように変わったきっかけは、日本の製造業者が「中国メーカーと真正面からぶつかるのを避け、国内生産の中身を付加価値の高いデバイスや原材料にシフトさせた」(宗像2003)とみられることにあるという。一方、中国経済に対する米国の見方は逆に、対中貿易赤字の拡大を背景に厳しいものになっている。EU諸国と中国の経済的な結びつきは日米のそれに比べれば弱いが、東欧とアジアという2つの地域で新しい競争相手が出現したことに恐怖を感じている。大まかに言えば、世界の生産能力が急激に増強されているのは、中国のせいだけではない。高所得国にある同じ製品の生産能力は縮小されているものの、新興市場ではそれを上回る設備増強がなされており、差し引きでプラスとなっている。こうした新興市場でのダイナミックな経済成長の恩恵を享受するには、高所得国がより好ましい産業分野への特化(分業)を進める必要がある。最初から好ましい形の分業が進んでいる国もあるかもしれないが、もっと順応性を発揮できる国もあるかもしれない。そこで本稿は、その過程で多国籍企業が果たす役割を検証する。第1部では、グローバル生産ネットワークの台頭と、それが低賃金国と高賃金国との貿易に及ぼすインパクトを説明する。第2部では、同じ多国籍企業でも本国がどこかによって(日本か米国か、あるいは欧州か)対中貿易への見方が異なることを論じる。そして、フランスに拠点を置く企業の企業内貿易を分析し、中国やCCE諸国の貿易パターンと比較する。最後に、企業内貿易とグローバル生産ネットワーク、国際分業の型などを関連づけて論じる。
日本の多国籍企業のアジア戦略:中国を中心に

舛山 誠一 野村総合研究所

要約 昨今の中国の台頭と地域経済統合の進展は、生産基地および消費市場としての中国の魅力を高め、かつアジア市場全体に構造的な変化をもたらすことにより、東アジアにおける多国籍企業の経営に大きなインパクトを与える公算が大きい。日本の多国籍企業はこれまで、裏庭である東アジアで米国や欧州の多国籍企業より幅広い活動を展開してきたが、その業績はあまり良くない。具体的に言えば米国の多国籍企業よりも悪く、最も重要な中国の国内市場でも後れを取っている。日本の多国籍企業は1990年代には国内の長引く不況に苦しみ、1997〜98年にはアジア金融危機によりASEANで打撃を被った。しかし、こうした景気循環による要因に加え、日本の多国籍企業と欧米の多国籍企業の中国戦略には大きな違いが5つあり、それが日本企業の業績の悪さを招いていると本稿では考えている。具体的には、1)日本企業は、ASEAN諸国への投資で培った資産を守る必要があったため、中国への投資を迅速に行わなかった。最近になって中国に投資の軸足を移したことで、ようやく欧米の多国籍企業と同様な投資パターンになった。2)労働集約的な事業を人件費の安い国にアウトソーシングすることを基礎とする国際生産ネットワークの構築で、日本の多国籍企業は米国企業に後れを取った。日本企業は生産工程を分解するスピードが遅く、中国への生産移管がようやく増えてきたという感じである。3)日本企業による中国投資は、国内市場への参入ではなく輸出プラットフォームの構築を主眼とするものだった。地理的に近いだけに、生産ネットワークの構築を促進する生産中心の投資が好まれたのは自然なことと言えよう。ただ最近は中国市場への参入を狙った投資が増え、バランスが取れるようになった。4)欧米の多国籍企業は、自分たちのマーケティングの目標に役立つような機能戦略を中国のために策定した。また市場にアクセスできるように、中国政府のいろいろな層に効果的に働きかけた。5)欧米の企業は日本企業以上に、経営と研究開発を中心に現地化を進めた。日本の多国籍企業とほかの国の多国籍企業との間で中国戦略に違いが生じるのは、おそらくイノベーション・システムが異なるためでもあるのだろう。日本企業は論理的な形式知よりも経験的な暗黙知を重視し、モジュラー式の生産システムよりも各部分が大々的に協力し合う統合生産システムを用いる傾向があるが、そのことが中国に進出した日本企業による生産工程の分解を抑制し、戦略的な情勢判断や現地化を遅らせた面がある。日本企業はイノベーションや生産システムにおける自らの強みを発揮しながら、欧米の多国籍企業の戦略に学んで弱点を克服する必要がある。実際、日本企業はすでにその方向に動いている。
日米の対中貿易の構造の違いと今後の見通し

西澤 隆 野村證券 金融経済研究所 経済調査部

まえがき: 西暦2000年以降の日本で生じた最大の社会経済学的変化はおそらく、日本経済の不振の原因(そしてその対策)に対する人々の見方が変わったことだろう。1980年代のバブルが1990年代に入って崩壊したとき、日本政府は総需要を増やして景気を上向かせるという非常に伝統的な景気対策を打った。国民もこの政策を強く支持した。しかし、1990年代だけで計120兆円を超える公共事業が実施されたにもかかわらず、何度か見られた循環的な景気回復は、財政政策の効果がなくなると同時にしぼんでしまった。そのため、2000年になるとこうした政策への疑念が募り、「痛みを伴う」政策を掲げた小泉純一郎首相が誕生し、政府系企業の民営化や規制緩和が厳しい緊縮財政政策とともに実行された。この点については、最近の総選挙でも自民党と民主党の政策に大きな差は見られなかった(中小企業への政策と年金改革への取り組み方で小さな違いが見られた程度である)。実際、構造改革の大まかな方向性については、過去数年の間に、国民のコンセンサスができあがったように見える。我々は数年前から、高コスト構造が是正されて初めて日本経済は復活すると主張してきた。そして、高コスト構造を是正するには、企業が持つ資産と人材を有効活用することと、需要を刺激する政策が必要だと説いてきた。分権化を促進する手段の重要性や、女性の社会参加を促す政策をはじめとする少子高齢化対策の重要性も強調してきた。最近では、人材や物的資源の有効活用では進歩が認められるようになった。企業は設備投資を大幅に増やしながらも過剰資本をそぎ落とし、人材の有効活用(業績連動報酬制への移行の成果である)も製造業から非製造業へと広がりを見せている。高齢化についても、デイケアセンターの増設や人材派遣業の規制緩和といった対策が講じられている。日本経済は2002年前半に景気循環の底を打ち、現在は循環的な回復の途上にある。2003年度の実質GDP伸び率(前年比)は2.9%に達し、我々が1〜1.5%とみているトレンド成長率を大きく上回る見通しである。ただし、構造改革がまだ進行中であることから、足元の景気回復が日本経済全体の自律回復に変わるとは思えない。現在の構造改革のペースを見る限り、日本の構造改革が完了するにはまだ数年かかるだろう。そして、全面的な景気回復が訪れるのはもう少し先のことになるだろう。言い換えれば、日本経済は当面の間、外生的要因の変化に振り回されやすい状況が続くだろう。その意味では、日本経済の今後にとって海外経済の動きはますます重要になりつつある。
人民元の適正価値を試算する

Barry Bosworth, ブルッキングス研究所

要約: 本稿では、中国人民元の適正価値を巡る議論を検証する。まず為替レートと外国貿易の過去のトレンドを概観し、1)購買力平価、2)マクロ経済のバランス、3)固定相場制の下で蓄積された外貨準備高という3つの視点から適正レートを推計する。これによれば、人民元は購買力平価ベースでは過小評価されているものの、所得の低い経済の適正為替レートを計算する際には購買力平価はあまり参考にならない。マクロ経済のバランスから見た限りでは、過小評価はほとんどあるいは全くない。中国は貯蓄が非常に多いことで知られており、この傾向が続く限り、経常収支が赤字になる可能性を示す根拠はほとんどない。ただ、意外なことに、中国の経常収支は大幅な黒字ではない。むしろ、外国直接投資(FDI)が大量になされているために、外国からの資本流入が過剰になっていることが問題となっている。中国は人民元の切り上げよりも、このように流入した資金を(外国企業の中国投資意欲を削ぐことなく)国際市場に環流させる方法を見つけ出す必要があるだろう。中国は国内に巨額の貯蓄があるため、外国資本を吸収しきれなくなっている。以前は、オンショアの外貨勘定の保有を許可したり、国際収支表に記録されない多額の資本流出(誤差脱漏)に目をつぶったりすることで相殺できた。しかし最近は人民元の切り上げ観測を背景に、外貨勘定からの資金引き揚げや記録されない通常の資金流出の環流が生じており、中央銀行に多額の外貨が売却される結果となっている。本稿では、この資金流入を管理する方法もいくつか検証する。人民元の切り上げを求める圧力が続けば、中国国内の貯蓄投資バランスが崩れて中国の経済成長が鈍化する恐れもあろう。
世界経済における新興国:新たなライバルと新たな市場

コンファレンスでの議論およびコンファレンス後に参加者が行った意見交換に基づく共同声明

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